ガイドライン2020情報 止血と止血帯(国際コンセンサス2020)
AHA及びJRCガイドライン2020ではまだ発表がないファーストエイドですが、国際コンセンサス2020にその記載があります。その中で気にったのが、止血帯です。ガイドライン2015に比べ止血帯の使用が強調される方向でした。本当に止血帯を使うのか、国際コンセンサスの中身を検証します。
まず、国際コンセンサスで提唱されているのは、命に関わる重大な出血に対する止血です。中程度でも、命に関わらない出血は議論の対象ではない事に留意ください。
また、病院外での指針としては研究が必要とも書かれていますので、非常に弱い推奨又は勧告である事が前提になっています。
その上で、止血に対する国際コンセンサス2020の概要は以下となります。
・命に関わる重大な四肢の外出血に対し、直接圧迫と比較し止血帯の使用を示唆する(弱い勧告)
・命に関わる外出血に対し、止血ドレッシングと比較し止血帯を使用することを示唆する(弱い勧告)
・止血帯がすぐに使用できない場合は、直接圧迫を提案する(good practice statement)
・出血部位が止血帯の使用に適してない場合、直接圧迫を推奨する(good practice statement)
これだけを見ると、止血帯の優位性を感じる記載になっています。なお、ここで書かれている止血帯(ターニケット/tourniquet)は、即席の物ではなく専用に製造された物が良いのではないかという研究データも書かれています。
最近日本において、ターニケットが一つのブームになっています。東京オリンピック2020(2021)でも、救護にあたるボランティアにターニケットの止血を教えています。
しかしここでは「命に関わる外出血に対し」てのみ、記載されている事に気を付けなければいけません。この部分を念頭に置かないでターニケットの教育を行うと、必要のない人にターニケットを使用して事態の悪化を招くケースが、多発することが予想できます。
では、どのような教育が必要でしょうか。国際コンセンサス2020には以下の通り書かれています。
・ファーストエイドプロバイダーが、どうやって止血帯が必要な障害(出血)と判断するかは、研究が必要です。
つまり、命に関わる出血だと判断するための教育をどうすればいいかは研究が必要ということです。
少なくとも、出血で人が命を落とす機序を理解したうえで、その兆候を見るための経過観察のトレーニングが必要です。その教育が確立できないまま、ターニケットの使用を推奨することは危険ではないでしょうか。
AHA及びJRCがどのようなスタンスでガイドライン2020に落とし込むかは未知数です。しかしファーストエイド全般に言える事ですが、具体的な観察を基にした判断のないファーストエイドは悪化を招きます。
国際勧告を受け止血帯の教育をする予定であれば、使用の判断基準を明確に伝えていくべきです。
私どものファーストエイド教育でも、止血帯を取り扱う事があります。しかし、その体験の前には必ず傷病者評価を学ぶ時間を作ります。日本の院外教育ではほとんど実施されていない内容です。ぜひ体験にお越しください。