ガイドライン2020情報 人工呼吸の変更点 (AHA ILCOR)
蘇生ガイドライン2020における、人工呼吸の変更について取り上げていきます。※COVID-19対策は別とし、国際コンセンサス2020およびAHAガイドライン2020について記載いたします。 ・小児乳児に対する人工呼吸ガイドライン2015から一部変更 ・溺水に対する人口呼吸ガイドライン2015から一部変更 【小児・乳児に人工呼吸は必須なのか 2020の見解は】 |
【小児乳児に対する人工呼吸】 AHAガイドラインにおける、小児よ乳児における人工呼吸の変更点は以下の通りです。以下、国際コンセンサス2020の見解も含め解説します。 ①小児、乳児に対する人工呼吸の必要性を強調(2015よりも強い言葉) 小児、乳児では呼吸原性心停止が多いことは周知のとおりです。そのため、以前より小児や乳児に対する人工呼吸の必要性はガイドラインで伝えられてきました。その必要性はガイドライン2020でも継続となりました。しかし、言葉を見るとより強調されています。プライベートの時間にたまたま出会った心肺停止傷病者であれば、人工呼吸をしないという方法があります。しかし職業上対応義務者であれば、人工呼吸をしないという選択肢が無くなったといえます。日本においては、平成28年9月15日に結審された、耳鼻科クリニックにおける小児心停止傷病者に対して人工呼吸を行わなかったことに対する民事裁判がありました。裁判所は、日本蘇生協議会ガイドライン2015において、人工呼吸の重要性が書かれているにも関わらず、人工呼吸を行わなかったのは過失があるとして約6000万円の賠償命令を出しています。まだ発表はされていませんが、日本のガイドライン2020も引き続き小児・乳児に対する人工呼吸の重要性を書いてくる可能性が高いです。小児や乳児に対応する職の方は、医療者でなくとも人工呼吸ができる準備が必要です。 ②小児乳児に対する補助呼吸と挿管後の人工呼吸の変更 国際コンセンサス2020において小児と乳児に対し、挿管後の人工呼吸は通常の呼吸数未満にすることが勧告されました(ただし、より多くのデータ研究が必要である旨が書かれています)。AHAでは、以下の通りに変更しました。 ・補助呼吸(反応なし、呼吸無し、脈が60回以上の場合) AHAガイドライン2015 3~5秒に1回の人工呼吸 AHAガイドライン2020 2~3秒に1回の人工呼吸 ・挿管後の人工呼吸 AHAガイドライン2015 6秒に1回の人工呼吸 AHAガイドライン2020 2~3秒に1回の人工呼吸 【溺水に対する人工呼吸】 ガイドライン2015では、溺水時のCPRの開始を以下のように伝えています。 ・国際コンセンサス2015 胸骨圧迫からがいいか人工呼吸からいいかどちらともいえない。各国のガイドラインの判断に委ねる。 ・アメリカ心臓協会(AHA)2015 胸骨圧迫からCPR開始 ・日本蘇生協議会(JRC)2015 胸骨圧迫からCPR開始 ・ヨーロッパ蘇生協議会2015 人工呼吸5回からCPR開始 上記に対し、国際コンセンサス2020は新しい勧告を出していなく、2015のままとすると書いています。ERCガイドライン2020は溺水の文言があるものの、なぜか何も書かれていません(10月29日現在)。JRCガイドライン2020はまだ未発表です。 ・国際コンセンサス2020 胸骨圧迫からがいいか人工呼吸からいいかどちらともいえない。各国のガイドラインの判断に委ねる。 ・アメリカ心臓協会(AHA)2020 補助呼吸から開始することを記載。 ※AHABLS教本では、2回の補助呼吸からCPR開始と記載。 AHA-BLSの教本には、補助呼吸からCPRを開始する事を記載しています。つまり、溺水時の心肺停止傷病者には以下の手順に従います。 反応の確認(反応なし) ⇓ 呼吸の確認(普段通りの呼吸がないか死線期呼吸) ⇓ 気道の確保 ⇓ 補助呼吸2回 ⇓ 脈の確認(脈が触れない又は、小児乳児の場合脈が60回未満で灌流不良の兆候がある場合) ⇓ 胸骨圧迫からCPR開始 ここしばらく、全ての傷病者に対してC(圧迫)→A(気道の確保)→B(人工呼吸)の手順を推奨していたAHAですが、ガイドライン2020では溺水に関してはABCに戻しました。 これは、ほぼガイドライン2005で勧告されていた溺水の対応に戻ったように見えます。しかし、ライドライン2005とも大きく違う部分があります。 1、気道の確保のタイミング ガイドライン2005では、呼吸の確認のために先に気道の確保をしていました。しかし、ガイドライン2020では呼吸の確認の後に気道の確保としています。これは、ガイドライン2010以降統一した、気道の確保は「人工呼吸のために実施」する方法に統一したのだと思います。 2、最初の吹込みは補助呼吸であり、人工呼吸ではない ガイドライン上、最初の吹込みは「Rescue Breath」と書かれています。つまり呼吸無し脈ありの際に実施する、補助呼吸です。やることは補助呼吸であっても人工呼吸であっても、変わりはありません。 なぜ、あえて言葉を分けたのでしょうか?溺水における最初の吹込みの意味を考えるとわかりやすいです。 溺水において最初の吹込みは、「循環がまだある人」であれば人工呼吸で状態を改善できる事を期待しています。しかし、「循環がない」人であればどうでしょう?肺に血流が回っていない人に対し吹込みを行っても、意味がありません。なぜなら肺が交換機能を持っていないからです。 つまり最初の吹込みは、まだ脈が残っていることを期待して行います。ということは、呼吸無し脈ありの人と期待して行う呼吸だから「補助呼吸」としたと考えられます。 補助呼吸と人工呼吸という言葉をあえて分けたのは、職業上対応義務者であれば行う手技の目的を分かったうえで、実施してほしいというメッセージではないでしょうか。 |