市民向けBLSと医療従事者向けBLSは決定的に違う
めぐさん、教えてほしいのにゃ。
経済学部の友達が市民向けのBLSコースに行ったって言ってたけど、医療者を目指す僕が行っても役に立つのかにゃ?
あら、役にに立たないことなんてないわ。
でも、ちょっと物足りないかしら。
何が物足りないにゃ?
使う道具が違うとか?
そう、例えば心臓に電気を流す道具とかね。
それをくろまる君にためして、、、うふふ。
やな予感しか、しないにゃ!
そうじゃないよ。
そら先生、いいところに!
助かったにゃ。
くろまる君かわいいから、もっといじってたかったのに笑
めぐ、相変わらずだな。
さっきの話、市民のBLSと医療者のBLSは機材の違いだけじゃないんだ。
当然、病院内と病院外(特に救急車到着前)では使う機材も違うんだけど、それより根本的な考え方の違いかな。
一言でいうと、医療者であれば考える蘇生が必要なんだ。
考える、、、、、蘇生?
医療者のBLSは考える蘇生
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日本において、BLS(心肺蘇生+AED)教育は多くのところで実施されています。
例えば市民向けBLSは、消防や日本赤十字社などが実施しています。
一方、医療従事者に向けたBLSは、AHAのBLSコースやICLSコースなどで扱われています。
両者、何が違うのでしょうか。
☑ 基本的なスキルは市民も医療者も同じ
☑ 心停止の判断基準が市民と医療者で違う
☑ 医療者であれば、心停止の原因を考えて優先順位の判断が求められる
使用する機材の違いはありますし、市民と医療者では心停止の判断基準が異なります。
しかし、基本的なスキル(胸骨圧迫、人工呼吸、AED)は同じです。
基本的な心停止傷病者に対するBLSは、市民でも医療者でも変わりません。
質の高いBLS(心肺蘇生+AED(除細動))を目指すことは、全てにおいて共通です。
一方で、一般市民と医療者では、心停止傷病者に対する行動の判断が大きく違います。
どういうことにゃ?
まず、市民向けBLSについてだね。
この内容はすごくシンプルなんだ。
周囲の安全を確保して、応援を呼んで、119番通報していることが前提で、
①反応がなく普段通りの呼吸がない又は死線期呼吸であれば、10秒以内に胸を押す。
②AEDが届けば、電源を入れて音声アナウンスに従う。
③感染防護が確実にできて、実施する意思があれば人工呼吸を行う。
の3つね。
詳しくは、こっちの記事を読んでね。
うん。うん。にゃ。
どんな原因でも、どんな状況でも、やることは同じだね。
だから、僕はこれを「無条件の心肺蘇生」って呼んでるよ。
医療者向けのBLSはどう違うの?
基本的な考え方は同じだよ。
心停止起こした人にやりたい、最大限の事が詰まっているのが、上のシンプルな方法なんだ。
でも、その通りのことができない状況もよくあるよね?
うん。うん。にゃ。
くろまる君、分かってうなずいてる?
夜勤なんか、そうよね。
応援呼びたくても、そもそも人数いなくてすぐに救急カート持ってこれなかったり。
救急カートとAEDが別の場所にある病院もあると聞いてるわ。
そうなったら、同時に準備なんかできなかったりするわね。
じゃあ、何を優先する?
コードブルーは呼んだとして、チームが来るまでに
胸骨圧迫?AED持ってくる?救急カート持ってくる?
どうしましょ。。
それを考えるのが医療者なんだ。
例えば夜勤だとするね。
入院中の50才男性が、胸が苦しいってナースコールがあったんだ。
1分経たないうちにその場に到着できたんだけど、ぐったりとしていて、反応がなく、正常な呼吸がなく、脈が触れなくなってたとするね。
その時ナースステーションには、たまたま誰もいなかったんだ。
その場合コードブルーをかけた後、胸押す?救急カード持ってくる?AED取りに行く?
え、どうしよ。
やっぱり胸骨圧迫して、コードチームを待つ?
うん?うん。にゃ。
くろまる君、考えてないでしょ。
それを考えるのが医療者だよ。
このケースの場合、胸が苦しいという訴えで、突然心停止になったんだ。
心停止の種別の中で、どれの可能性が高いと思う?
心、室、、細動(VF)ですか?
うん。心室細動(VF)に、違いないにゃ。
(何言ってるか分からないから、ピピちゃんの答えに同調しとくにゃ。
ちゃんと考えてる雰囲気をアピるにゃ。)
その通りだね。
ただ、心室細動に「違いない」という短絡的な考えはよくない。
多方面から物事を見ないと、間違いが発生するからね。
とはいえ、このケースだと心室細動の疑いは強いと思うんだけどどう?
はい!
はいにゃ。(暗に怒られたにゃ。)
そうしたら、何を優先する?
あ、AED!
そういうこと。
心停止の原因と種類を判断して、行動につなげていく力が必要なの。
もっと言うと、そこの場所からAEDを取りに行って戻ってこれる時間は?
コードブルーのチームが到着するまでの時間は?
総合的に考えて、ここで胸骨圧迫を続けるか、自分でAEDを取りに行くか瞬時に判断が必要ね。
もう1例。
肋骨骨折で入院中の12歳男の子。
痛みが強いという訴えで、鎮痛剤を投与したら呼吸音が聞こえはじめ、呼吸が速く弱くなり、顔がまだらに赤くなってきたんだ。
しばらく頻脈が継続した後で、急に徐脈に移行し、呼吸音がとぎれとぎれになり、反応がなくなり、脈が触れなくなったとするね。
チームがいて、質の高い胸骨圧迫を継続できてるんだけど、次に何を急ぐ?
ちょっと、何言っているかわからないにゃ。
え、いつもの通りだとAED、、じゃないんですか?
もちろん、AEDも不正解ではないよ。
心室細動を起こしていることは否定できないから。
でも、もっと別の事の方が疑いが強そうだね。
結論を言うと、脳や心臓に酸素が足りなくなった兆候がいろいろ出てるんだ。
その原因は呼吸不全か、循環不良が考えられるね。
そう考えると、AEDが同時に使えるなら試す価値も当然ある。
でも、人工呼吸と輸液を早い段階で試したいよね。
難しくなってきました。。
頭ウニにゃ。
うん。
難しいんだ。
この判断を市民に求めると、わけが分からなくなって、今の2人の状態になるよね。
そうすると、間違えて余計なことをしてしまったり、結局手を出せなくて蘇生に繋がらない事が現場で起きる。
だから、市民向けにはシンプルにできることのみを教えているんだ。
でも、医療者であれば、市民と同じく「質の高い心肺蘇生」+「もう少し蘇生科学に基づいた行動」をしたい。
① 心停止の原因を考え、胸骨圧迫・人工呼吸(補助呼吸)・除細動の優先順位を判断し、優先順位に沿った行動をする。
② 機材が揃い質の高いBLSが継続できる場合、継続しながら次に必要な処置を考える。
これが、医療者向けのBLSに求められている、「考える蘇生」ってことなんだ。
医療者向けのBLSの考える蘇生の詳細は、こっちの記事を参考に勉強してね。