ガイドライン2020 情報
2020年10月21日 アメリカ心臓協会 AHAガイドライン2020が発表されました。今回の発表は、心肺蘇生(CPR)および心疾患治療(ECC)のガイドライン2020となります。 なお、国際蘇生連絡協議会(ILCOR)の国際コンセンサス(CoSTR)2020も同時に発表となりました。ちなみに、日本版ガイドライン2020(日本蘇生協議会)は、2021年3月までにドラフト版の発表の予定が表記されています。 ここでは、ガイドラインの主なトピックスをお伝えします。 【参考 AHAガイドライン2020 ハイライト クリックすると日本語版PDFが開きます】 |
主な変更点 【BLS(AHA)】 ・市民救助者に対し、(実際には)心停止でなくとも心停止を疑った場合のCPR開始を推奨 ・市民に対し、中高生へのCPR教育の実施を提案 ・市民に対しオピロイド中毒のナロキソン投与トレーニングの実施を提案 (現段階でわが国では市民のナロキソン投与は不可) ・乳児の胸骨圧迫(1人の場合)が、二本指法だけでなく胸郭包み込み法及び片手の検討 ・小児の補助呼吸が2~3秒に1回へ変更(2015では3~5秒に1回) ・小児の高度な気道の確保後の人工呼吸が2~3秒に1回へ変更(2015では6秒に1回) ・妊婦のBLSの記載 ・溺水時、早急な人工呼吸の開始(人工呼吸からCPR開始も示唆) ・チーム蘇生の重要性の強調(CPRコーチの新設) 全体的に、BLSの手技そのものの変更はわずかです。印象的だったのは、小児乳児及び溺水の人工呼吸の重要性がさらに強調された点でしょうか。特に、溺水に対するCPRが昔のルーチンワークに戻りました。しばらくは全ての傷病者に対し胸骨圧迫からCPR開始をAHAは推奨していたのですが、人工呼吸から開始が示唆されたのはすこし驚きです。 それ以外はどちらかというと、現場で蘇生率を上げるためにはどうしたらいいかという、次のステップに踏み込んだ内容が多い印象でした。つまり心停止の予防と、質の高いCPRを効率よく実施できるチームを作るための教育です。心停止の予防としては、脳卒中や心停止前の心疾患、オピロイド中毒などがBLSの分野で大きく取り扱われています。 これはおそらく、いくらガイドラインを実効性が高く、かつエビデンスの基づいたもので発表をしてきても、実際の蘇生率が思ってように上がっていないからではないでしょうか。ガイドライン2005あたりから実効性を高めるために一部を簡略化する方向で進めてきました。しかし、別の課題が見えてきたということです。つまり、心停止の予防と、CPRを実際に行うチーム(科学的に効果のある)教育の強調がガイドライン2020では強く感じます。 【ファーストエイド】 驚いたことにファーストエイドが、CPRとECCのガイドライン2020に掲載されませんでした。しかし、「2020 American Heart Association and American Red Cross Focused Update for First Aid」が出ることが示唆されています。別件で、ILCORは国際コンセンサス2020で「First Aid Science With Treatment Recommendations」として別の文章が発表されました。つまり、心停止前のファーストエイドとその治療が全く別のものとして発表されたことになります。 これは、私たちにとっては大きな動きと考えます。BLSの項目で、「予防」の記載が大きくなってきたと書きました。その具体的な「予防」がこの文章に記載されていると考えられます。あえて心肺蘇生のガイドライン2020がら切り離して、別の文章にするという事は、心停止の予防が本当に重要であるという認識の現れだと感じています。そして、ファーストエイドが治療と共に記載されているのは「院外の現場」から「院内での治療まで」どのようにつなげてくかの提案と考えられます。非常に興味深い内容ではないでしょうか。 なお、国際コンセンサスで記載されているのは以下の内容です。 ・軽度の低血糖に対するブドウ糖投与 ・低血糖における食用の糖 ・熱射病の冷却方法(静脈輸液を含む) ・アナフィラキシー アドレナリン自己注射器の2回目の投与 ・脳卒中の認識 ・回復体位 ・出血管理 ・頸椎損傷の固定 ・火傷のドレッシング ・抜けた歯の保存 項目が少ないのは、少し残念です。例えば2015で明確にされなかった脳震盪の評価スケールなどの記載を期待していたのですが、また今後でしょうか。また中には、2010から勧告を変えないと書いているものもあります。これはあくまで国際コンセンサスなので、AHA及び日本蘇生協議会版は別の記載がある可能性もあります。 詳細は、今後の発表を受け少しずつブログに記載いたします。 |